他のボイトレの対応や自分の反省をこめて思うことがあります。
ボイトレの良し悪しを判断するとき、経営者の立場から言いますと、どうしても「生徒が長続きする」という点を無視できません。そのための方向性としては「1.うまくなったことを実感できる」と「2.来ること自体が楽しい」という要素を外すことはできません。このおもな2点をスポイルするやり方があるので少しずつ確認したいと思います。
いきなり表現を求めることは大NG
生徒さんの当初の目的は、おそらく「原曲の歌い方そっくりに歌えるようになる」です。それを達成するためには、歌いまわしの最終目的である雰囲気を要求することになります。「ここは切ないように歌って」「ここはスピード感を持って」などなど。これをやると、アウト。生徒さんの頭の中は「そうしなければいけないのはわかる、しかし、どうすればいい??」になります。これの指導をいきなりやると、表現する方法はすべて生徒さん任せになり、生徒さんも良くわからない状態でなんとかやろうとします。「お、それ、いいよ!」と言っても生徒さん自身に根拠がないので、とても不安です。他の章でも書きましたが、表現は技術の複合体です。最低限の声のコントロール方法をきちんと教え、声の変化のバリエーションもある程度教えて、「どう表現したいか」という本人の意思を確認して、それに沿って「じゃどうする?」を考えなければなりません。
なぜ多くの先生は表現を求めるのか
その理由のひとつには、「それは正しい」ことであるからです。歌の最終目的は表現です。聞き手は技術的なものはあまり聞き取れませんので、歌われた声の全体的な雰囲気を感じます。ですので、聞き手に伝わる雰囲気を求めるのは間違いではありません。しかしながら、前項目でお話しした通り、何の技術も持たない人ができるわけがありません。ここから次のことが発生します。生徒さんは言われた通りできない、先生はできる。「ほらあなたはまだまだでしょう?」という権威づけが行われます。つまり、この指導をしている限り、先生は自分の権威をより高く保つことが出来ます。これが第2の、しかしあまり意識されない、あるいは意図的に、一番大切な指導方法から目を背けている動機だと思います。これは生徒さんのためにはなりません。きちんとした積み重ねが大事であることを説明して、こつこつやることが大事なのではないかと思います。