でも完膚なきまで壊したこと、ありますか?
各種実験を行ってきましたが、
3回ほど「おおっと、声がうんともすんとも出ないぜ!!」
という状態になったことがあります。
立場上、いろいろの声の出し方を要求されます。しかし最初からすべての要求にこたえられるほど、人間、器用ではありません。その中でも難関だったのが「デスボイス」。いや、別に出したい、と言われたわけではないのですが、「一度、調べとかいとな」と思ってやってみたところ、壊れました。これから「どうやったら喉が壊れるか?」をお伝えしたいと思います。
「あれだけゴリゴリした声だと、どこかで空気振動がオーバーフローしているハズ」という仮定。
まず、うなり声のようなデスボイスには空気の流れる音がかなり混じっている、という判断をしました。すると次にはどこでその音を作るか、という問題になります。まず考えるのは声帯ですね。首にある声帯に過剰な息を供給することで、似たような声を出すことができました。さて実験です。実際に歌ってみたところ1時間でクラッシュ。声を出そうとすると首元あたりで「くぁっ」っという具合で息が引っかかり、その後は勢い良く吐かないと息が流れない。普通に声を出そうとすると、声帯がしまっていないのか、スカスカ息が漏れる音しか出ない。そして治るまで3週間。これを1年ごとに1回、計3回やって全部同じ結果でした。「3回もやるな!」というご批判もあるかもしれませんが、「1回では統計的に根拠が薄いと思った」、それだけです。
結局原因が特定できなかった、ということはどういうことだろう。
とにかくひどい。朝起きたときは特にひどくて「おはよう」の一言も言葉になりません。とはいっても痛みはありません。通常の呼吸にも問題はありません。とにかく声を出そうとすると「ガズーーー」と息が流れるだけ。少しでも声にしようとすると、かなりの気合入れで出さないとできず、当然二言・三言が限界です。しかし声帯で音だけ出すのは何とかできます。3回目、とうとう原因追求のため病院に行きました。
最初は近所の耳鼻咽喉科。鼻からカメラを突っ込んで「はい、声を出して」といわれ、とりあえず声帯を鳴らしました。「あぁ、きれいに振動していますねぇ、なにが原因かしら?」と先生、困惑。同時に国立病院の呼吸器内科へ。肺や気管支等の呼吸危器官のレントゲンをとって確認。わからず。最後に紹介状を書いてもらい、大学病院へ。「甲状腺ですかねぇ?」と教授自らが検査。まず甲状腺のエコー調査。またまた鼻からカメラで声帯の確認。原因が分からず、とりあえず「また来てください」ということなので、1週間後に行ったところ、今度は客をなめくさった態度の若い女医。きちんと原因と追求するように、と言ったところ「世の中には絶対などない」など傲慢な態度。「いいから前回と違うアプローチで検査しろ! 何のためにわざわざ来てやったんだ!」と一喝。しぶしぶ声帯の下までカメラを入れることを承諾させ、声帯の下の部分を撮影。正直きつかった。しかし原因分からず。そのデータをみた30半ばの男の医者。「ええっ、声帯の下までカメラ入れたの? 勇気あるね!あっはっは!!」と笑いやがった。ぷっちーん!!! 男女二人の不遜な医者に向けて、20分間、オーナーちゃんの説教タイム。理屈で攻めたると「タバコ吸っているのが原因だ!!」などとぬかしたので、「学会でそれが証明されているのか」「30年来吸い続けてこの時のみに症状が発生する根拠は何か」等々攻め立てると、とうとう「原因は分かりません」と白旗の結論。「勝った……」。勝ったではないですね、呼吸器系に問題がなければ、可能性としては消化器系の可能性が残ります。つまり食道に何らかの炎症がある可能性もあったので胃カメラへ。ここでも問題なし。という徹底調査に基づいての結論は次の通りです。
「声帯は意外と疲れやすい筋肉で、その限界を超えると修復に大変時間がかかる」
そういうことです。喉に呼気を過剰供給するのは、特にアーティストを目指す方は、おやめください。息は省エネで使うことをお勧めします。