生徒が壁を越えたとき、予想もしないリアクションがある。
ある生徒の物語です
歌が下手。コンプレックス。そして仕事に支障がでる。
不動産関連の仕事に携わる生徒さんがいました。当時26歳ぐらいでしたでしょうか。シュッとした見た目で、ナイスガイ。気配りもばっちりできますが、決していやみではない。しかし、歌が下手なことがコンプレックスで、仕事でのカラオケも心底、嫌。そのストレスがピークに達し、うちの扉をたたきました。確かにひどかったですが、それは何度も書いているとおり、教えられていないだけ。こつこつと練習を重ね、徐々に上手になっていきまいた。しかし! 心に刻まれた恐怖心はなかなか克服できないものです。
仲間こそ、勇気
私どもの教室では発表会はライブハウスで行っているのですが、何度か出場を促してみました。けれど返ってくる答えは「いえいえ、わたしなんて……」。それでも見に来てくれることで、他の生徒と仲良くなります。するとその仲間たちからプレッシャーがかかります。「なあ、一緒に出ようぜ!!」みたいな。同じ立場からのお誘いは、私たち先生側からの誘いとは別の意味を持ちます。そしてとうとう、意を決して、清水の舞台から飛び降りる気持ちで出場を決めました。
やってみると、意外とたいしたことはない
発表会当日、彼はガチガチの緊張状態です。ただ仲間がいるのである程度は緩和。しかしリハーサルの時などはやはりガチガチ。まあ、仕方がないですね。あれだけ苦手意識を持っていた人前で歌うことを舞台でやるわけですから。そして本番。実際歌い出すまでは、緊張で固まっていました。しかし目の前には仲間たちが。
「おらに、歌い出す勇気をくれ!」
などとドラ○ンボール的な心情があったかどうかは知りませんが、なんとか歌い出しました。
するとどうでしょう。
歌い出してしまったから開き直ったのか、頑張って歌えるではありませんか!
そして客席からは仲間の励ましの声。
「あれ? あいつ、ステージ上で笑顔で手、振ってね?」
余裕ぶちかましです。なんだか
「あ、全然平気」
ということに気づいてしまったようです。最後まで笑顔で歌い終わった彼には、満面の笑顔が浮かんでいました。そして、その後「お疲れ様!」と私。すると彼、
「あ、今度の発表会、いつですか?」
だとさ。「なんや!それ!!!」とその豹変振りに思わず突っ込みを入れた次第です。
これこそ、お教室
そんなこんなで彼は転勤になるまでいた訳ですが、これぞお教室の本質だと思っています。彼にとってのコンプレックスが跡形もなく解消し、歌うことが楽しい。ひいては人生の重石が解消されたといっても過言ではないと思います。オーナーちゃん、彼の結婚式に呼ばれまして、幼馴染のテーブルに配置され、昔からの彼の友人とさんざん盛り上がって騒いだのですが、彼らもその変化に驚いたとのことです。別にプロレベルになる必要はない。「嫌」が「好き」に転化するこの瞬間、これこそ人の幸せの一つではないでしょうか。そんなことで彼のおかげで自分自身の存在意義を実感できた出来事でした。ちなみに突っ込みが関西弁だったのは、彼が大阪出身だったこととは関係がありません。