分解すれば、技術の一つ一つの積み重ね。
選択は感性。
歌詞を読んで感情的に!という指導だけではぴんと来ない人が多い。
歌を習っていると、「心をこめて」「ここは悲しい感じで」「飛び跳ねるように」などなど、歌のリズムとメロディに変化を要求されることが多いですが、「???」ってなりがちではありませんか? なんとなく歌ってOKが出たとしても、自分でよく分かってないと不安になります。しかしそれをきちんと分解すると「ここはこう、ここはこう」と無意識に技術を選択していることが分かります。さてどんな技術が主に使われているのでしょうね? 高等技術ではなく、汎用技術に絞って考えてみます。
感情表現は歌詞・メロディ・BGMとの兼ね合い。
歌を歌うときに、先に決定しているのは、歌詞とメロディ、そして演奏です。これは変化させない前提で、まず方向性を決めます。方向性は、大きく分けると次の2つです。
- これらの音に沿って、表現を一致させ、一体感をもった楽曲に仕上げる。
- あえて違う雰囲気を歌でのみ作り出し、ギャップの中での統一感をもたせる。
まあほとんど場面では1を選ぶことになるのでしょうが、時には、めちゃめちゃ明るい曲調なのに歌詞が悲しいものであったり、真剣にまじめで重い曲調なのに、アホみたいな内容の歌詞がついていたりすることもあります。そんなとき、私はあまのじゃくなので、ちょっとワクワクしちゃったりします。このように、用意された音は単調であっても、意図的な変化をつけて、歌い手の意志を表現することができることがわかります。当然楽曲中にも変化がありますので、その流れに沿って歌い分ける必要があります。ところが実際には、どんな曲を歌っても歌い方が同じ、という人がほとんどです。悪くはないです、全然悪くないし、プロの中にもいらっしゃいます。でも面白くないと思いませんかね……。
歌の中で人為的に変化させられる要素を抜き出す。
メロディのピッチが合っている、そして基本リズムを崩さない、という2つの条件で考えますが、この条件下で、歌い手が変化させられるもののひとつは「音量」です。音量は一番分かりやすいのですが、単に大きく、小さくという考えから先に進まなければなりません。まずおさえるべきことは、「音量変化のもつイメージ」です。大きな音を出した後にいきなり小さくなるとインパクトが大きくなりますね。逆もまた然りです。一方で徐々に大きくなっていったり小さくなっていったりすると、イメージとしては緩やか・滑らかなどのイメージがつきます。ちなみに小さな音の最小音は「無音」です。アカペラや弾き語り等をするとよく見られる現象ですが、音のない箇所で、焦って早く歌おうとする衝動にかられるようです。音のない部分も曲の一部です。音のないところから音が出る、これも立派な音量変化です。
次に変化できるのは音の「長さ」です。短い音、長い音、これらの組み合わせで、伝わるイメージが変わります。短い音を連続すればスピード感や躍動感のような感じが出やすいですし、長い音は伸びやかな、広がるような感じが出ます。そして短・長の組み合わせは、いろいろなイメージを作り出します。「長さ」はあくまでリズムの中で決めましょう。よくロングトーン(歌で伸ばすところ)を気持ちよく伸ばしている人を見ると、「のばしすぎや!」と突っ込みを入れたくなります。どこまで伸ばすのか、でイメージが変わってしまいますので、考えて伸ばしていただきたいところです。
音量変化・音の長短の組み合わせは、歌い手の意思。無数にある。
音量変化と音の長短だけでもかなりの変化を作ることができます。ここに、語尾の処理、リズムの変化、アクセントの利用、声のトーンの変化等々を混ぜると、際限なしにバリエーションができると考えてよいでしょう。いろんな曲を歌っていくうちに、なんとなく「こう歌おう」という自分なりの歌い方が出来上がっていくと思います。これこそが無意識の選択であり、オリジナリティというものかもしれません。ただし時代に合うか合わないか、この点については、私は責任が持てませんので、あしからず。