仕事だから仕方ないが、弊害もある
「耳が良くなるために必要なことは、実は意識の問題が大部分」というようなことは、時々書いてきました。実際に、音を聞き分ける力は量をこなしていくとけっこうついてきます。しかし時に、それがあだになる場合がある。そんなお話です。
聞こえてしまうがゆえに気持ち悪い。でも言えない。
「オーナーちゃんの生徒がライブに出る」ということで見に行ったときのお話です。「アンダーグランドなライブバーみたいな感じ」ということで、流行のラブソングという路線ではなく、「世の中へのいろいろな思いの丈を吐き出す」みたいな方向性で5組ほど出ていました。年齢はそうですね、生徒以外はアラフォーぐらいでしょうか。演奏中に退席するほど失礼なものはないので、最後まで聞いていたのですが、すごいです、音のズレ、リズムのずれが。音量もありますし、昔であれば別に気にしなかったのかもしれません。本人たちも気持ちよく歌っていますし、音楽活動も長そうです。でも気持ち悪い……。ビールではほとんど酔わないのですが、音で酔いそうでした。そういえば酔うのは三半規管に関連しているはず、音で酔うのも道理です。
そして、我が校の生徒ですが、生徒もそれほどリズム・ピッチが安定しているとは言えないのですが、それでも安心して聞けました。ここでふっと思いました。
「あ、合わせる気があるかないかで聞こえ方が全然違うのね」ということです。
大きな声を出して、思いの丈を叫んで気持ちいいというだけだと、ずれ方そのものが完全に不規則になり「ぐわんぐわん」するじゃないか? という新たな着想を得られたのでこのライブは収穫アリでした。そして演奏後はきちんと拍手!! 最後まで笑顔を崩しませんでした。
上下10%ぐらいのピッチのずれが気になりだしたら耳はとりあえずOK
常に「自分の歌を録音して聴く」を繰り返すと、音のズレがイメージとして感じられます。表題のようなズレは上にずれると「変に垢抜けて間抜け」、下にずれると「陰気」みたいな音に聞こえます。人によって違うかもしれません。歌の分析ソフトを使って確認すると、だいたいこのような傾向が現れます。逆に、あえて表現としてそれを使う時もあります。
でも、耳がこんな状態になると、誰かとカラオケに行くのがけっこうきつくなります。音がまわったりずれたりが気になってしまうのです。しかしオーナーちゃんはまだまし。生徒の歌を聞いているので慣れていますから。知り合いのPAエンジニアの方は、「カラオケは、本当に気持ちが悪くて行けない」と言っていました。こう考えると、友達同士で「あいつ、うまいよね!!」みたいな会話ができていたあの時のほうが、音に対しておおらかで、かつ感性豊かで楽しめたのかもしれません。
「仕事にする」ということは、何かを無くしちゃうことがある、ということを覚悟しなければならないのかもしれません。ふうぅ、おじちゃんだな、私……。