A.いや、よくよく考えると……、
別に好きじゃあ、ないなぁ……
生徒に聞かれて「はて? 私は、歌うの好きかしら?」と再考しました。
中学三年生でバンドに誘われてからずるずる歌い続けていますが、それまで歌っていたわけではなく、音楽を聴く量も凡人並み。普通に「歌が好き」という人とも、まったく別の観点からの歌へのアプローチだったのです。
そもそもが歌のクオリティ無視のオファーだった。
「バンド、やろうぜ!」と無謀にも私に声をかけた者の理由はたったひとつ。「英語ができるから」。オーナーちゃんは中学1年生の末に2年間のアメリカ生活を終えて戻ってきた帰国子女だったのです。それだけ。誘った者は私が歌っているところなど聴いたことがありません。そいつ、別のクラスだったし。私、全然歌わない子だったし。ピアノはやらされていましたが、大嫌いだったし。現在でもなぜそれに乗っかったのか、全く謎です。いったい何を血迷ったのでしょう? そんな具合なので、「バンドで演奏って、どんなジャンルなのか?」からスタートです。
新ジャンルとの出会い
私が音楽を聴き出したのがちょうどアメリカに飛ばされていた時。マイケル・ジャクソン、シンディー・ローバー、シカゴ、ヒューイルイス・アンド・ザ・ニューズ、ブライアン・アダムズなど、日本でベストヒットUSAが流行るちょっと前ぐらいです。幼心に初めて聴く洋楽の第一印象は「まあ、なんて歌が上手なんでしょう」です。日本ではそれまでアイドル全盛期でしたらね。歌のうまさに愕然としたのを覚えています。それでも基本はポップス。そんな状態でバンドをやることになり「じゃ、この楽曲、練習しておいて^^」と渡されたのが「ラウドネス」。えーっと、これ、ジャンルはなに? え? ヘビーメタル? 「初めて聞いたわー、そんなジャンル^^」みたいな。まあ根が真面目なので、やるとなったら、とりあえず手に入るラウドネスの曲を手当たり次第聞き始めます。ところでね。当時、変声期をとうの昔に越えていたオーナーちゃん、「なんだよこの音域。まともに出るはずがないよね」が素直な感想。ここから何とかして声を届かせる実験が開始されます。
そんなこんなで何年か続けていくうちに思い当たったことがあります。それは「同じ人間なんだから、声質以外はなんとかなる、きっと歌えるはず」という大上段に構えた前提です。「物理的に不可能でない限り、何らかの方法論が存在するはずだ!」と、思い込んだのが高校三年ぐらいだったと思います。ここからは手当たり次第の実験です。高かろうが、低かろうが、速かろうが遅かろうが、ジャンルも性別も音域も全く無視して実験開始。ここにはほとんど曲の好き嫌いなど入り込む余地はありません。歌えなさそうなら、やってみる。そんなことをかれこれ以降15年ぐらい続けました。当然「就職して以降も」です。
それで本格的に、歌の世界に携わろうと思ったのが10数年前。きっかけは当時働いていた会社が乗っ取られて、「やめてやらぁ!!(怒)」という、あまりほめられたきっかけではないのですが、当時まったく解けなかった謎に全力で取り組むべく、集中して研究を始めました。するとやはり視点がずいぶん広がり、これまでにかなりの謎が解明できたと思っています。そして、その謎解きの楽しさが私の原動力です。歌が好きかどうか、全然関係ないのでございます。ある意味、こんな別視点からのかかわり方だったため、これだけ長期間、興味が持続したとも言えるのではないかと思います。