歌唱論【呼吸の章】
「声を出す」ということの物理的な原則
肺に取り込んだ空気を呼気として吐き出すときに、空気振動を作り出す動作。
体内に空気を取り込まないと、「声」は生成できない。また、取り込んだ空気を
呼気として排出しないと、同様に「声」は生成できない。
この章では、
- 人間が構造上、どうやって大気中の空気を取り込み、どのように呼気として排出するのか
- 呼吸を司る身体機能に、どのような特徴があるのか
- 歌唱に適する空気の取り込み方とはなにか
- 歌唱に適する呼気の排出方法とはなにか
この4点に関して考えていく。
1.呼吸の身体的な仕組み
呼吸の目的=生命維持が基本
人間が生物である以上、空気中の酸素を取り込む必要がある。その構造は、胸部上部にある2つの
肺の体積が変化して、空気の取り込み・排出を行う。
また生命維持に必要不可欠な動作のため、基本的にはほぼ無意識に行われており、通常意識する
ことは少ない。
呼吸の種類
呼吸は肺の体積が変化して行われるが、肺自体は動くことできない。肺の周りの筋肉群が動いて、
体積を変化させる。そしてその変化の方法には2種類ある。
(1)外肋間筋を使う方法
(2)横隔膜を使う方法
この2種類である。ちなみに通常の呼吸はどちらか一方で呼吸している、というわけではなく比重の問
題であるが、2の方法を通常使用しているのは女性のほうが多いと言われている。
(1)外肋間筋を使う方法
外肋骨筋とは肋骨と肋骨の間にある筋肉。この筋肉の伸縮によって肋骨
内部の空間が変化して、肺の体積を変化させる。外観的な特徴としては、
空気を取り込むと胸部が膨らみ、排出すると胸部がしぼむ。
(2)横隔膜を使う方法
胸腔と腹腔の境界にある筋板で、胴体を輪切りにする形で、肺下部にある。
ちなみに、横隔膜をはさんだ上下をつなぐ穴が存在し、血管を通す大動脈裂
孔・大静脈孔、食料を胃に送り込むための食道裂孔という。
呼吸の身体的動きはこの2種類として、どちらが、あるいはその無意識の動きを意図的に変化させることで、歌唱に適する方法論を考えていく